6-2.体系を理解しよう!
所有文と存在文
所有文の用法;「人」には、~がいる/ある
次のような日本語の文は、ロシア語ではすべて同じ文型を使って言う。
・彼には~がいる。(兄弟、恋人、など) ・彼女には~がある。(お金、夢、など)
・私は~を持っている ・君は~を飼っている。
所有文の用法;У +名詞生格形+есть +名詞主格形
例)私はパスポートもビザも持っている。 |
У меня́ есть и паспо́рт и ви́за. |
неё=н+её
「だれのところにあるか」は、у+人名詞の生格形で,
「何があるか」の名詞部分は主格形だよ!
その他、以下のような場合も、同じ文型であらわすことができる。
例)あなたはアレルギーがありますか? |
У вас есть аллерги́я? |
例えば「店のトイレ」は、必ずしも店員の物ではないだろうが、下のように言って大丈夫。
例)すみません、トイレはありますか? |
Извини́те, у вас есть туале́т? |
所有を言うとき、例えば、「私の家に」とか「あなたの会社に」などをつける場合は、
「人」と「場所」を切り離して言う傾向がある。
ただし、「私の父」など「人+人」場合は切り離さない。
例)私の会社には車がある。 |
У меня́ есть маши́на в о́фисе. |
У+名詞生格形は、「誰の側についての話なのか」という話題の切り出しでも使われる。
例)私は頭が痛いです。 |
У меня́ боли́т голова́. |
所有文の過去・未来・疑問・否定
・過去文;естьをбыл / была́ / бы́ло / бы́ли主格の性数に合わせて変える。
例)彼にはガールフレンドがいた。 |
У него́ была́ подру́га. |
・未来文;естьをбытьに変えた上で、人称と単数複数に対応させる。
例)もし、時間があれば、行きます。 |
Е́сли у меня́ бу́дет вре́мя, я приду́. |
・疑問文;存在・所有の有or無を尋ねるものと、疑問詞を使ったものがある。
例)すみません、地図はありますか? |
Извини́те, у вас есть ка́рта ? |
・否定文;естьをнетにする。過去や未来の文のときは、неをつける。
Q:Wi-Fiはないんですか? |
У вас нет Вай-Фай? |
否定生格に注意!
「存在が無い」と言う場合、主語の「~が」にあたる名詞は主格形ではなく、生格形で言う。
例)今日、時間がありますか? |
У вас есть вре́мя на сего́дня? |
иде́и<иде́я
この文型で過去形を否定するときは、主格名詞の性に関係なく
не бы́ло+否定生格になるよ!
存在文の用法;「場所」には…がある/いる
用法は、所有の文型とほぼ同様。注意点は、前置詞に続く名詞によってв/наが点である。
в/на+名詞前置格形+ есть+名詞主格形
例)会社には車がある。 |
В о́фисе есть маши́на. |
イラスト;イラストAC
生格の用法
「生格」という用語について
「生格」という用語に違和感を覚える人は多い。なぜなら、「生」という漢字から用法のイメージができないからだ。他の格だと、「主格」は「主語」とか「主体」だろう、「対格」は「対象の格」すなわち主体の行為の対象だろう、とイメージできるが、「生格」はそうはいかない。
「生格」は、ロシア語で«роди́тельный паде́ж»、英語では'genitive case'であり、両者ともに「生来・起源の格」という意味だ。それを受けて、日本語で「生格」という用語になったのだろう。
ところで、この格を「所有格」か「所属格」と呼んだほうがいいのではないか?という人がいるが、それはそれで問題がある。生格には、「所有を表す用法」と「無に生を与える用法」があるからである。
「所有を表す用法」について述べる。例えば、日本語で「マリアの荷物」という場合、「マリアの」が所有者である。ロシア語でそれを言うとき、Мари́яを生格形に変えて、Бага́ж Мари́иとすればよいというわけだ。このように、「~の…」で二つの名詞をくっつける語句の作り方は、「所有者の物」だけでなく、「全体の部分」や「物の数量」のほか、様々ある。
「無に生を与える」とは、少しややこしいが、「否定した時点でそこには『無い』が、表現の上で『有る』」ということである。こういう物事の捉え方は、日本語の用法に組み込まれていないため、我々日本人には理解し難い。だが、ロシア語においては、話題にしている物事が、現実にあるものなのか、話をすすめる上での仮の設定なのか、それがわかるように格変化させることが重要なのである。
以上に述べた生格の2つの用法について、以下に解説する。
「~の…」に当てはまる用法
所属・所有(だれのものか?)を示す
例)先生の/イワンのバッグ | су́мка учи́теля / Ива́на |
Ива́на< Ива́н
バリエーション(どれか?どんなか?)を示す
例)プーシキン通り |
у́лица Пу́шкина |
оде́жды<оде́жда
何の一部分であるかを示す
例)日本の首都 |
Столи́ца Япо́нии |
го́рода<го́род
го́да<год
何の数量であるかを示す
例)私は45歳です。 |
Мне 45 лет. |
вина́<вино́
その他、日常的によく使われるもの
例)誕生日/誕生日おめでとう! |
день рожде́ния / С днём рожде́ния! |
обме́на валю́ты<обме́н, валю́та
рабо́ты<рабо́та
無に生を与える用法
否定生格は、前述の「存在が無い」という場合や、他にも以下のものがある。
例)彼はそこにいない。⇔いる |
Его́ нет там. ⇔ Он есть там. |
「何も~ない」「誰も~ない」など、疑問詞を使った否定表現の際も、否定生格にする。
例)誰もそこにいない。 |
Никого́ нет там. |
ничего́< Ничто́
希望や欲求の生格;これらの動詞は、目的語の名詞が対格ではなく生格になる。
例)幸せを/仕事の成功を祈っています。 |
Жела́ю вам сча́стья / успе́хов в рабо́те. |
сча́стье, рабо́та, весь,хоро́шо,споко́йный, но́чь, де́ньги
…希望に類いの動詞の目的語は必ず生格となる。
「さようなら」などのあいさつも、「私はあなたの~を祈っている」が省略されているので生格。
要求などの場合は、目的語を生格にするか対格にするかで、ニュアンスが変わる。
例えば、「お金が欲しい」という場合、使途が決まった額なのか否かで格形を使い分ける。
生格にすると、抽象性や眼前にない物まで含まれるといったニュアンスを帯びる。
復習項目;前置詞+生格ほか
без+生格「~なしで」 |
例)ミルクなし、砂糖入りでお願いします。 |
от+生格「~から」 |
例)モスクワからペテルブルグまでバスで10時間です。 |
из+生格「~の中から」 |
例)家から出なさい ⇔ 家に入りなさい |
с+生格「~の面から」 |
例)彼は南から来た ⇔ 彼女は南へ行った。 |
по́сле+生格「~の後で」 |
例)食後にコーヒーをお願い(⇔食前) |
для+生格「~のために」 |
例)友達のためのプレゼントを探しています。 |
у+生格「~のところに」 |
例)私は湖のそばのホテルに泊まっています。 |
語句の組み合わせ方
二つの名詞の単純な組み合わせから形容詞を伴う名詞がある場合や前置詞句内での変化規則など。
例)町の中心 |
центр го́рода |
о́перы<о́пера
造語の方法は、二つの名詞を組み合わせるのか、形容詞+名詞なのかは、それぞれ覚えるしかない。
例)本屋、家具屋 |
кни́жный магази́н, ме́бельный магази́н |
必要、許可と禁止、可能
・~する必要がある |
ну́жно (на́до) + 動詞 |
ну́жно (на́до) もмо́жноも共に副詞である。
用法としては、4課の3)副詞の特徴(補足)と同様、主語を持たない副詞文である。
~する必要がある;нужно (надо) + 動詞
行為の必要性について述べる。
それを必要としている人(「人に」の部分)は与格形にする。
過去についてはбы́лоを、未来について言うときはбу́детを動詞の直前に置く。
例)ネットでチケットを買っておく必要がある。 |
Ну́жно купи́ть биле́т онла́йн. |
↑注釈↑ここにマウス過去のことを言うときはбы́лоを使う
ну́жноとна́доでは、後者のほうが口語的であるという程度の微妙な違いしかない。
Q: 他に何か? ― A: 要りません、ありがとう。 |
Что́-нибудь ещё? - Не на́до, спаси́бо. |
~してもいい;можно + 動詞
バスの車内で「通ってもいい?」など、状況で意図が伝わるなら Можно? の一言でよいだろうが、
はっきりと意図を伝えたい場合は、動詞部分も言う必要がある。
そのような場合は、мо́жноに続けて動詞の原型をつける。
例)バスの車内で;通ってもいいですか? |
Мо́жно пройти́? |
もちろん、後に続けるべき動詞が思いつかない場合は、ジェスチャーで伝えるだけでよい。
例)(指差して)これ、(取っても)いいですか? |
Мо́жно (взя́ть) э́то? |
「いいですよ。」と言いたいときは、次のような返答になる。
例)いいですよ/どうぞ/もちろん |
Да,мо́жно. / Пожа́луйста. / Коне́чно. |
「だめです」と言いたいときは、нельзя́ + 動詞で言う。
мо́жноに接続できる動詞は、完了体、不完了体のどちらもOKだが、次のような違いがある。
完了体;その場限りの写真撮影について尋ねる |
Мо́жно сфотографи́ровать? |
「私は~してもいいか?」という表現は、「私は~できるか?」と言いたい場面でも使える。
例)切符は通りの売店で買えますか? |
Мо́жно купи́ть биле́т на у́лице в кио́ске? |
次項目では、「あなたは~できるか?」=「~してもらえますか」の表現について述べる。
~することができる;мочь + 動詞
мочьは動詞で、意味は「~できている」。後ろに動詞を従えて「~することができている」となる。
(「できている」という日本語は少々奇妙だが、不完了体であることを示すため、このように表記する。)
мочь / с-мочь;できている / できる
過去形 / 命令形 ;мог, могла́, могло́, могли,/моги́,
я | ты | он/она/оно | мы | вы | они |
---|---|---|---|---|---|
могу́ | мо́жешь | мо́жет | мо́жем | мо́жете | мо́гут |
他人に依頼して何かをしてもらうとき、次のように言う。
例)私の写真をとってもらえますか? |
Вы мо́жете меня́ сфотографи́ровать? |
それに対する返答は、以下。
例)はい、いいですよ/喜んで/もちろん |
Да,мо́жно. / С удово́льствием. / Коне́чно! |
「できる・できない」について言うとき、次のような違いがでてくる。
一つは、時間の都合や許可の有無などの事情による場合、
もう一つは、能力的にそれができないという場合である。
例)(事情によって)私は車を運転できない。 |
Я не могу́ води́ть маши́ну. |
уме́ть / с-уме́ть;できている / できる
過去形 / 命令形 ;уме́л,,,/уме́й,
я | ты | он/она/оно | мы | вы | они |
---|---|---|---|---|---|
уме́ю | уме́ешь | уме́ет | уме́ем | уме́ете | уме́ют |
мочьにпоをつけたпомо́чьという動詞がある。意味は、「助ける(手伝う)」。
例)助けてもらえませんか? |
Вы не мо́жете мне помо́чь? |
「人を」の部分は、対格ではなくて、与格なんだね。
по-мога́ть / по-мо́чь;助けている / 助ける
過去形 / 命令形 ;-мога́л,,,/-мога́й,
я | ты | он/она/оно | мы | вы | они |
---|---|---|---|---|---|
-мога́ю | -мога́ешь | -мога́ет | -мога́ем | -мога́ете | -мога́ют |
イラスト;イラストAC
複文その1;接続詞と疑問詞
接続詞;потому что / поэтому / что / когда + 文
・потому́ что;なぜなら
・поэ́тому;そういうわけで
例)雨が降っていたので、タクシーをつかまえた。
Был дождь, поэ́тому я взя́л такси́.
例)彼女はパーティーに行けなかった、なぜなら医者のところに行く必要があったから。
Она не могла́ пойти́ на вечери́нку, потому́ что ну́жно бы́ло пойти́ к вра́чу.
・что ;~ということ
・когда́; ~とき
例)私は、彼は来ると思っている。
Я ду́маю, что он придёт.
例)彼は風邪をひいているようだ。
Мне ка́жется, что у него́ просту́да.
例)私が本を読んでいるとき、夫はテレビを見ていた。
Я чита́ла кни́гу, когда́ мой му́ж смотре́л телеви́зор.
疑問詞;где, куда, откуда, когда, кто, что,,,, + 動詞/文
例)どうやったらいいか、わかりません。 |
Я не зна́ю, как де́лать. |